“近代的競泳者”と“デジャビュなセビリア”

先週金曜(20日)夜は、演劇集団モダンスイマーズの『回転する夜』(蓬莱竜太作・演出、新宿THEATER/TOPS、4月30日まで)を観た。「青年の自己実現」というテーマを扱いながら、少しも予定調和に陥ることなく、こんなに新鮮な切り口と料理の仕方を提示するとは! とっても面白かった。いわゆる小劇場系の芝居で、セリフや演技にシラケさせられたり違和感をおぼえたりする瞬間が皆無だったのは、ほぼ初体験かもしれない。
半返し縫いのように進行・展開する、現実の出来事のような、記憶のような各場面。次第次第に立ち上がってくるそれぞれのキャラクターに匂い立つような濃密なリアリティを感じ、それを見守るだけでとてもスリリングだった。やるせないが、だからといって暗くなるほど甘えていない。閉塞感はあるが、絶望するほど単純素朴でも脆弱でもない。時間と懐工合が許せばまた観に行きたいとすら思ったほど。
出演者は全員、すごーく良かったが、とりわけ客演の古川悦史さんと高田聖子さんのニュアンスに富んだ演技は、この物語の舞台である「主人公の部屋」の容積にピタリと合っていて、リアルだった。

翌土曜(21日)午後は江ノ島へ。『セビージャ・デジャビュ』と題するライブを虎丸座で。石塚隆充(カンテ)、高木潤一(ギター)、吉見征樹(タブラ)という色男三人組(?)。石塚さんの歌いっぷりに、はじめのうちはただただ耳目を、やがて心を奪われる。歌うことに全身が100パーセントもれなく奉仕している。内臓もことごとく充血して、声帯を孤立させていないはずだ。そうやって発せられる歌声が表情筋に横溢し、顔の骨格を共鳴させる。そして高木さんのむせぶようなギター。そこへ、吉見さんの飄々とした、それでいてキレキレのタブラ。江ノ島から逗子あたりまで、連続でんぐり返しをしたくなるくらい素晴らしいライブだった。
それにしても、“大人の帰国子女”みたいな石塚さん――長年スペインに住み、昨夏帰国したらしい――のスキだらけの(?)キュートなMCに、吉見さんがツッコむことツッコむこと(笑)。ほんまに嬉しそうにツッコんではりました。

両者に共通するのは、重さと軽さ、内向と外向の絶妙なバランス。一日の終わりのお楽しみとして、精神的・生理的エネルギーを費やす度合いと時間的なボリュームも、ほんとにちょうどよかったでした。ブラボー!