「狼の砦」へ

SZ駅で待ち合わせ、水脈をたどって「狼の砦」へ行く。
紅茶で煮た豚肉、黒ビール、チーズとパンなどで晩餐。
どの皿も例外なく美味。マダムに感謝。
泊めていただいた部屋は、
天国への階段の踊り場に設置されている換気扇の音のような、
宇多田ヒカルがやせて年取ったような息混じりの女の声がひと晩中、
「ホーホー」と歌うのが聞こえたが不思議とよく眠れた。
美声で船人を誘惑して船を難破させるというセイレーンが
水脈沿いに上陸していたらしい。
一階の大本営や廊下では、要潤に似た、
だがしかしアジア人ではなさそうな
長髪で背広姿の若い男の幽霊が四六時中、足早に歩き回っていた。
細身で小柄だったので足音は邪魔にはならなかった。

晩餐のあとは、大元帥がご愛聴のミレイユ・マチューのCDを聴く。