『羽鳥アヌス亭の海藻』

少し前に、地下鉄の車内で50歳くらいのサラリーマンが、なんと『ハドリアヌス帝の回想』(マルグリット・ユルスナール、多田智満子訳、白水社)を立ったまま読み耽っているのを目撃。公共図書館で借りたようで、しかも、色とりどりの付箋がびっしりとついていたのが印象的だった。というか、付箋だけで本1冊分の厚さになりそうなほど。いったい何をマーキングしていたのだろう。
付箋をつけながら本を読むのって、実用書の読み方っぽいというか、文学にはなじまない――本書なんぞ、その最たるもののひとつじゃないだろうか――ような気がするだけに、なおさら気になったことであるよ。

もっとも、サラリーマンのおっさんがユルスナールを読んでちゃおかしい理由はないし、あるいは本書が実用書として読まれたって、てんで構わないわけですが。
もっと言えば、そのリーマンのおっさん、もしかして本書をポルノ小説として読んでいて(ま、あり得ないけど)、じつは「アヌス」が出る毎に付箋をつけてたとか、そういう創造的な読書の現場(?)であったとしても一向に構わないわけですが。