ベケット「マーフィー」冒頭、拙試訳

太陽は、そうする以外どうしようもなく、いつもとまるっきり同じ場所を照らしていた。マーフィーはウエスト・ブロンプトンの路地裏で、自由に居場所を選べるかのように日陰に腰かけていた。かれこれ半年の間、彼が飲み食いを行なったり、寝たり、服の脱ぎ着をしたりしてきたのは、ここ――南東に面した、鳥小屋みたいな、平均サイズの集合住宅の、景色だけははるかに見渡せる北西に面した平均サイズの部屋だった。だがこの路地は少し前に通行禁止になってしまったため、まもなく彼は引っ越しをするための別種の身支度をしなければならなくなる。まもなく彼は仕方なしに荷物をまとめ、まったくなじみのない環境で飲み食いを行なったり、寝たり、服の脱ぎ着をしたりすることになるのだ。……