木下尊惇ソロ・コンサート@近江楽堂@東京オペラシティ

9月のあたまにも一度、大雨が降って気温がだいぶ下がった日があった。その直後にフォルクローレ・ギタリストの――とりあえずこの肩書きを添えます――木下尊惇さんのソロ・コンサートを聴いた(9日、近江楽堂@東京オペラシティ)。
しみじみ楽しくて、濃くて力強い、すばらしいコンサートだった。「ただただ、この歌を、この曲を届けたい」という真情がガツンと伝わってきて、心をタテ横斜めに揺さぶられた。
ゲストの、クラシック・ギターの松下隆二さんも、花を添えるどころか、お二人のデュオでひと晩中聴いていたいくらいだったし、ほんとは箏奏者なのにシンガーとしてもカッコいい森川浩恵さんの「ありがとういのち」(作詞・作曲/ビオレッタ・バラ)もまた聴けてよかった。客席にはこの歌の詞を訳した高橋悠治さんの姿も。

木下さんを初めて聴いたのは7、8年ほど前、トランペットの渡辺隆雄さんとパーカッショニストの小澤敏也さんのユニット、ピカイアが主催する、南米音楽寄りのミュージシャンを広く束ねた「ピカイア祭り」というライブ・イベント(西荻窪・音や金時)で。
ギターの音がピキピキしててロックっぽいなぁ、鬼怒無月さんのギターを思い出すなぁ、しゃべりが面白いなぁ、こんな人がフォルクローレというジャンルにいるなんて!とびっくりし、気がついたら木下さんのワークショップに通っていたのでした。

そのワークショップでいちばん興味深かったのは、それまでわたしが携わった2度のバンド遊びでもの足りなかったところ――にもかかわらず自分ではうまく言語化できなかったことがらが、木下さんの口からはっきりと言葉で示されたこと。たとえば、「グルーヴがある」とはどういうことか、何がグルーヴをつくるかとか、曲の流れと構成をメンバー全員がきっちりとらえて演奏する楽しさなど。音楽にジャンルなんて関係ないことをひしひしと感じたのでした。

木下さんの活動を知ったことで、自分の音楽観も少し変化した。それまでは、音楽イコール趣味の一分野だったが、音楽は趣味以上のもの、人に生きる力をダイレクトに注入するものだと思うようになった。音楽全般がもっと好きになったのかも。

ジャンルにこだわらない音楽好きには、いっぺん木下さんを聴いてみてほしい。フォルクローレ音楽ファン、南米音楽ファン以外を魅了する木下さんをもっともっと見てみたい――と、今日もまたぞろレッチリを聴いていた私は思うのだ。